隅々まで手入れされた道具は精巧な継手と仕口を完成させます。荒削りから仕上げまで仕事や使い方に応じてさまざな道具がつくられました。五意達者とは、棟梁が身に附ける五つの技法(式尺の墨がね・算合・手仕事・絵様・彫物)です。
特に、式尺(木割)、墨がね(規矩)の習得は困難を極め、墨付けの技法は熟練を要します。


刻 屋 作 業
 金輪継ぎ
 大入れ蟻仕口
 断面加工部(背割り)
 枘工作
 小屋組架構材
 構造材の先端部分
   







南向きの山で育った木は、陽当たりや風当たりが強く年輪の中心や間隔が川手と山手では均等ではありません。
北向きの山で育った木は、風雪が穏やかなので真直ぐに育ちます。山に入って杣木を相手に自然の厳しさを学ぶと、木の曲がりやねじれを予測して、構造用か造作用の選別の技を使いこなすことができるのです。
また、木は大地に根を下ろしているときも、伐られたあとも均一ではないため木を加工するときに刃先から伝わる僅かな手応たえを感じ、寸法の違う鑿(ノミ)を使い分けながら細工加工を描いていきます。
【墨壷】墨壷は曲尺(さしがね)、釿(ちょうな)とともに大工の「三種の神器」です。
【墨池】墨汁をしみ込ませた墨綿を入れておきます。
【糸車】糸を巻いておきます。糸が湿度などで傷まないよう風通しをよくするため、
     御所車のデザインが多いです。
【壺口】糸が出る穴。糸の摩擦を防ぐために陶製や真鍮製の「すぐち」をはめます。 
【軽子】先端に針がついています。
     この針を木材の端部に突き刺して墨掛けや墨出しを行います。
【墨刺】墨掛けの際に線を引いたり、番付けや合印を書き込む竹製の筆です。
    ※筆記用具のない時代から、曲尺を定規として、墨壷、墨糸、墨刺で
     部材に規矩の表現を施します。
刻屋では、棟梁が木が山で育った状況を的確に判断して墨刺で墨掛けを行います。墨掛けとは、これから、割るべき部分や切り、削るべき箇所に罫示する作業のことです。製材された木材の特性には、伸び縮み、反り、割れる、狂うといったクセがあります。このような性質のため、熟練した職人の技が必要になります。
棟梁は木の癖を一本、一本読み取りながら墨付け作業を行います。



■■  金輪継ぎの工作  

構造材の技法としては、最高位の強度を持つ金輪継です。金輪継は墨付も工作も手間を要するため、選定する職人が減少した技法です。
左右まったく同形であり、T字型目違いのため、組み合わせる場合にはその長さの分の逃げ道が必要になります。材の中央部のあご面を接合し、材軸方向にい移動させます。あご面の間にできた間隙に込み栓を打ち込んで固めます。

 構造材の金輪継ぎ



■■ 大入れ蟻仕口工作 ■■

 

■■  美しい木肌の断面加工部  ■■
年輪を見るとが違いが分かります。赤心・黒心・源平・白太など成長が盛んな時期は大きい細胞からできている部分が淡く繊維も柔らかです。おとろえると細胞が小さくなり濃くなり、この濃淡で年輪ができ木が生きていた証になります。人間の顔が一人ずつ違うように、木肌もひとつとして同じものはありません。均一でないために年輪ごとに幅や比重も違い、水分も心材と辺材部分が違うために、木の性質を熟知し、適材適所に使いこなす術を持つことが棟梁の技量になります。
 

■■ 背割りを施しました ■■
「木の性質」を 考えながら、鋸を挽き鉋を掛けていきます。化粧材として扱われる柱材には主に柾目取り加工を施します。一方、芯持ち材は乾燥してくると、ひび割れが入るために材の樹芯まで達する鋸目を入れ、そこにひび割れを集中させておきます。この作業を「背割り」と呼びます。写真上は、軒桁に棟梁が木目を見て「背割り」を施しました。



■■ 太柄工作 ■■
太柄とは、架溝材の水平方向の力によるズレや歪みなどを防ぐために接合させる際に上下に穴をあけます。あけた穴に架構材を差し入れることで強度を安定させます。



■■ 小屋組架構材 ■■
水平墨から2寸下がった水平線です。 水平墨から2寸上がった水平線です。
小屋束の大入れ蟻の仕口加工部分です。棟梁が墨付けして水平線を描き込んでいます。



   ■■ 構造材の先端部分 ■■
構造材の先端部分の工作です。すべて棟梁が墨付けを施しました。大入れ蟻継ぎ、金輪継ぎなど仕口加工が並んでいます。二つ以上の素材を、直線的に継いだものを継手・角度をもって組合したものを仕口といいます。力の流れに対して適切な継手・仕口を選択することや丁重な施工を心掛けています。 
△写真上の継手番号『東へ十五』は、最高位の強度を持つ金輪継です。
また、他の仕口施工にも繊細な棟梁の手心を加えました。手心とは、材面の細い寸法線を境に、内と外の区別を認識して、工具・機器を使用する事です。 


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