木造住宅における伝統的構法は、民家や社寺の流れを色濃く継承しながも時代時代の生産環境や基準に影響を受けながら変化してきており、地域によりまたグループにより様々な構法が存在しています。これらの伝統的構法は、いわゆる在来構法と対峙して語られることが多く、これまで一般的に伝承されてきた技術に基づき、全国各地域において、多様な仕様にて建築されています。
今後の設計法を構築していくためには、体系的分類に基づいた設計及び施工の実態を調査する必要があります。その伝統的構法の整理をするにあたり、棟梁・大工及び事業者にヒアリング調査を実施することが決まりました。
まだまだ修行の身でありながら、全国14名の実務者ヒアリング調査の南四国代表に選ばれました。


伝統構法の構造に関する分類についてのお願い
                    一般社団法人 木を活かす建築推進協議会
                    財団法人 日本住宅・木材技術センター

この度、その伝統的構法の整理をするにあたり、棟梁・大工及び事業者の皆様にヒアリングをさせていただくことと致しました。 伝統的構法については、これまで一般的に技術の伝承としての仕様に基づき建設されてきましたが、昨今においては構造的な安全の検証が求められてきているところです。今後の設計法を構築していくためには、体系的分類に基づいた設計及び施工の実態を調査する必要があります。

つきましては、先に担当の実務者委員より連絡させていただいたとおり、別紙のとおりヒアリング調査をお願いしたいと思いますので、何かとご多用中のところ恐縮ですが、ご協力いただきますようお願い申し上げます。

                                                      謹白

9月4日に調査員3名が来高しました。
調査員は、松留愼一郎氏・渡邊隆氏、管野照夫氏の3名です。ヒアリング調査会場は高知県森林技術センターです。伝統構法を学ぶ会から、私と、森林技術センターの沖主任研究員、岡林設計士の3名が参加です。
まず最初は大工になるきっかけ、修行した場所や期間、棟梁になった後に育てた弟子の数などを聞かれました。その後、高知県独自の様式について尋ねられましたので、台風銀座と呼ばれるほどの暴風雨による雨風対策について、いくつか事例を挙げて説明しました。屋根に瓦を葺く時に、瓦職人が大量の土を野地板の上に置いて葺きます。屋根に重量を加えることで暴風の揺れを防いで家屋の安全を保つためです。重量を支える梁や柱については、従来よりも2割ほど大きな部材を使用することになります。また、下屋の庇に丸桁を組み込むことは、もちろん他県でもありますが、木の根の部分まで使うのは高知独特の構法であることも説明しました。
次に土佐漆喰の特徴です。糊入れながいこと、カマゾコと土と藁を混ぜた土壁の強度については強度が増すが一気に崩れる弱点あること、また東部には腕の良い左官職人が存在していることなど伝えて大いに盛り上がりました。その後、沖主任研究員から補足説明がありました。
松留調査員は沖主任研究員が実地している森林技術センターでの豊富な実験に驚き、また勉強されていることにいたく感動された様子でした。
4月に発足した「伝統構法を学ぶ会」の層の厚さや多彩な顔ぶれにもエールを送っていただき大いに励まされたヒアリング調査になりました。今回の聞き取り調査を受けて、高知の伝統構法が守られるだけではなく、自分達の世代に合うよう進化させていく必要も感じています。100年も、木の暮らしのスタンダードであることを信じています。





ヒアリング調査員3名を刻屋近くの住宅に案内しました。まずは入母屋の和風住宅です。
上部の天井板は、入手困難な梁瀬杉の柾板です。(斜めに製材するため、大きな丸太でないと加工できない)建築材は地場のヒノキと杉で梁は松です。調査の先生方は外壁の本下見が伝統構法本来の細工であると褒めてくださり心強かったです。
また、管野調査員は前日のヒアリングで話題になった丸桁の根もと掛け合わせを実際に見て驚いていました。そういえば、旧大正役場の職員から、県外に根株を集めに行くことを聞いていました。(県外では山に放置しているようです)
少し照れくさかったのですが、素人には分かり難い細部にも手間隙掛けた手仕事にこだわっているのを評価していただき自信を持ちました。
手加工が丁寧であればあるほど時間がかかりますが、100年、200年のスパンを考えると僅かな細工でも手を抜くことを惜しんでは良い家屋を建てることは出来ません。これからも、丈夫で安全で安全な住いの提供できる職人として努力を重ねていきます。
途中で、面白い屋根を見つけました。
高知県では瓦を左右に葺き分けている地域があります。台風などの影響で、南東の暴風雨から家を守るための知恵で、四方棟の場倍は南西側が右瓦、東北が左瓦を下から葺き上げていきます。ほよど珍しいのか何枚も写真を撮っていました。
次の家屋は、師匠である親爺が中心となって手がけたものです。この家には柱のホゾへの込栓がありません。理由は、日本瓦の家は屋根に土を置くので(家にもよりますが、10トン〜20トンほど)その重みで柱の同付が時間をかけて自然に付かすためです。
私は、込栓は同付を付けるため一分足らずの引きを取って加工しています。今の込栓は引き付けよりも、引き抜き強度を増すための方が重要視されているように感じています。渡邊調査員も、昔の柱のホゾの込栓は、柱の同付を付けるために用いられている筈だと頷いていました。
 高知では珍しい安芸市の地瓦製造工場(アキ寅瓦)です。
 土佐漆喰と水切り瓦は、強い陽射しと暴風を防ぐための建築意匠です。
今回の調査を受けて、自分の仕上げに対して普通だという思い込みがありました。
気候風土に根ざした先人の知恵こそに本物のエコ住宅があるでしょう。高気密高断熱の部屋の中で、化学薬品の浸み込んだ建材(床、ドア、階段など)や壁材(クロス貼り)から蒸発する汚染物質を吸いながら暮らし続ける不健康な住宅がこれ以上増えないためにも、建築基準法を見直し、伝統構法の家づくりを推進する施策転換を期待します。そのためには自分達の誠意が試されるのです。私自身も遅れながら「伝統構法を学ぶ会」を立ち上げました。若い職人は
意欲があり何事にも真剣ですので、次世代に受け継ぐ道案内になるよう取り組んでいきます。

木造住宅における伝統的構法は、民家や社寺の流れを色濃く継承しながも時代時代の生産環境や基準に影響を受けながら変化してきており、地域によりまたグループにより様々な構法が存在していると言える。これらの伝統的構法は、いわゆる在来構法と対峙して語られることが多く、これまで一般的に伝承されてきた技術に基づき、全国各地域において、多様な仕様にて建築されてきている。
一方で、住宅建設を取り巻く環境は、耐震偽造問題に端を発し建築確認申請の審査の厳格化や四号特例の見直しとともに、平成21年10月からは特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律により工務店に対する保険や供託の仕組みを活用した資力確保の義務付けが施行されるなど大きく変化しており、伝統的構法においても構造的な安全の実証が求められてきているところである。
ここでは、そのような状況をふまえ、伝統的構法における構造上の設計法を構築していくために、伝統構法の構造に着目して全国の多様な仕様を体系的に分類整理しようとするものである。具体的には、全国各地の伝統的構造法に関する実務者に広く呼びかけ、構造材料、学部構法、継手仕口等に関するアンケート調査を実施しており、その結果について報告を期待するものである。
なお、今年度のアンケート調査をふまえ、来年度は実務者へのヒアリング調査を計画しており、合わせて構造上の具体的な構法分類をおこなう予定である。

                               職業能力開発総合大学校
                                 教授  松留槇一郎

1.ヒアリング調査

皆様が普段行っている構法の特徴や工夫等について、お話を伺います。

1)ヒアリング項目
@基礎の形式・配置など(石場だて、布基礎、べた基礎等)
A軸組の構成・仕様など(土台・足固め、柱、梁、小屋組等の構成及び継ぎ手・仕口の種類等)

Bその他の耐力要素(土壁、貫壁等の耐力要素の種類、部材の構成・寸法等)

C屋根の形状(勾配、軒の出等)

D床高さ・階高さ、柱の配置と断面寸法など

Eその他部材の樹種、モジュール、寸法の押え方等)

2)調査対象

原則として、前年度アンケート調査において、ヒアリングに応じても良いとご回答いただいた方を対象としております。

3)調査行程

調査は、ヒアリング(3時間程度)を予定しております。

また、可能であれば現場見学もお願いしたいと思っております。

2.図面の作成等

1)既往の設計図書

既往の設計図書でご提供いただける図面がございましたらお預かりさせていただきたいと思います。

2)モデル設計図書
地域の特徴的傾向を比較検討するためには、ある程度同じ条件とする。
必要があります。このため、平面・立面グリットのみ当方で用意させていただきますので、これに沿ったプランをお願いします。ヒアリングを元に当方で作図させていただきますが、可能であれば、皆様に図面作成をお願いしたいと思います。

ご作成をお願いしたい図面の種類は、下表の通りです。

・ご作成の伏図に表現して頂きたい要素を、下表の備考欄に掲げます。必要に応じて
 図面の種類を増やすなどのご対応をお願いします。


・図面の縮尺は、1:50を標準として下さい。

図面の種類

備考

(伏図に表現して頂きたい要素)

平面図

・一階平面図

・二階平面図

伏図

・基礎伏図

・一階床伏図

基礎(地中梁を含む)、土台・足固め、大引き・根太、差し鴨居

・二階梁伏図

・小屋軒桁妻梁伏図

二階梁(下屋部分を含む)、小屋軒桁・妻梁、小屋梁・母屋・垂木

軸組図

・梁間方向軸組図・一(外周壁通り)

・梁間方向軸組図・二(中通り)

・桁行方向軸組図・一(外周壁通り)

・桁行方向軸組図・二(中通り)

 検討メンバー
検討メンバーは以下のとおりである。
松留 槇一郎  職業能力開発総合大学校建築システム工学科 教授
大橋 好光   武蔵野工業大学工学部建築科 教授
南  一誠   芝浦工業大学工学部建築学科 教授
後藤 正美   金沢工業大学環境・建築学部建築系 教授
橋本 清勇   広島国際大学工学部建築学科 准教授
網野 隆明   日本民家再生リサイクル協会((有)アルケドアティス・山梨県甲府)
上野 英二   NPO法人伝統木構造の会
        (オークヴィレッジ木造建築研究所・岐阜県高山市)
管野 照夫   NPO法人 緑の列島ネットワーク
        (シンタックホーム・岩手県陸前高田市)
小原 広輝   日本民家再生リサイクル協会
        (輝建築(株)・大阪市福島区)
松井 郁夫   職人がつくる木の家ネット
        ((株)松井郁夫建築設計事務所・東京都中野区)
宮本 繁雄   日本民家再生リサイクル協会
        ((有)建築工房悠山想・福岡県朝倉市)
渡邊 隆    NPO法人 日本伝統建築技術保存会
        (風基建設(株)・東京都新宿区)
大倉 靖彦   (株)アルセッド建築研究所 取締役副所長
山口 克己   (株)アルセッド建築研究所



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